「横浜バレエフェスティバル」の魅力と楽しみ方  文=高橋森彦(舞踊評論家)

 いま、日本のダンサーが国内外で大活躍しています。世界各国の名門の最高位を務める日本出身のスターは少なくありません。また国内のバレエ団の注目度も高まり、人気と実力を兼ね備えたダンサーもいます。そうした状況を受けて、夏になるとガラ公演が年々増えてきました。そのなかでも、2015年に始まり2020年を除いて毎年神奈川県民ホールで開催されている「横浜バレエフェスティバル」は、先駆的存在かつ独自の個性を誇ります。

「横浜バレエフェスティバル」の特徴は、「美・激・愛・動・静・寂」などの「バレエの様々な ”パワー”」を味わえるバラエティの豊かさ。新進気鋭からトップスターまで、幅広い年齢層の踊り手による表現の違いと、古典名作からコンテンポラリーダンスまで多様な演目を一度に楽しめるのです。そこで采配をふるうのが、芸術監督の遠藤康行さん(元フランス国立マルセイユ・バレエ団ソリスト/振付家)。旬であったり熟成され食べごろであったりする選び抜かれた素材(=ダンサー)を生かした作品(=料理)をピックアップし、それをいかに盛り付けて並べ、観客に供するのか。毎年、遠藤さんが腕を振るいます。

「フレッシャーズガラ」では、国際バレエコンクール受賞者や本番同様の会場で行うオーディションによって選抜された将来有望な逸材たちが集います。初回(2015年)に登場した永久メイさんは、その後、ロシアの超名門マリインスキー・バレエのファーストソリストとして大注目を浴びる存在になりました。2017年に始まったジュンヌバレエYOKOHAMAによるグループ作品では、新世代の星たちが点ではなく線としてつながり、若々しく清新で未来につながるパフォーマンスを披露します。

「ワールドプレミアム」は、世界標準で傑出したプロによる選りすぐりの演目ぞろい。菅井円加さん、二山治雄さんというローザンヌ国際バレエコンクール覇者は、受賞後の研鑽ぶりを存分に魅せてくれます。そして、高田茜さんが英国ロイヤル・バレエ団プリンシパル昇格の前年に出演したり、倉永美沙さん、近藤亜香さんがバレエ界のアカデミー賞と称されるブノワ賞にノミネートされ時の人となった時期に出演したりしました。また湯浅永麻さん、津川友利江さん、高瀬譜希子さんという欧州の著名ダンスカンパニーで実績豊富な偉才を一早く広く紹介するなど、現代ダンスの先端にも目配りしています。

「横浜バレエフェスティバル」に接すると、バレエの次代を担う才能に出会えますし、世界のバレエ界における日本のダンサーたちの活躍を肌で実感できます。”推し”を見つけるもよし、新たなダンスの魅力に開眼するもよし。オープニングからフィナーレまで見どころ満載なので、観る人それぞれの楽しみ方があるでしょう。バレエの魅力に親しめば、人生がより豊かになるはず。毎年、夏の横浜で過ごす至福の一日が待ちきれません。

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