きっと虜になってしまうはず 文=小野寺悦子(バレエライター)

2015年に第一回開催を迎えた『横浜バレエフェスティバル』。以降毎年上演を重ね、今では夏の風物詩となりました。

『横浜バレエフェスティバル』の魅力といえば、まずワールドワイドなキャスト勢。記念すべき初開催時はモンテカルロ・バレエ団プリンシパルの小池ミモザやABT(当時)の相原舞らが舞台を飾り、翌年はボストン・バレエ団プリンシパル(当時)の倉永美沙やオーストラリア・バレエ団プリンシパルの近藤亜香が、第三回開催時はロサンゼルスバレエ団プリンシパルの清水健太がーーと、毎年世界各地の名門カンパニーから豪華ダンサーが神奈川に集い、技の競演を繰り広げてきました。

クラシック・バレエのみならず、コンテンポラリー・ダンス界からもトップダンサーが続々参戦。元ネザーランド・ダンス・シアターの湯浅永麻はマッツ・エック振付作『Juliet&Romeo』を、バレエ・プレルジョカージュの津川友利江はアンジェラン・プレルジョカージュ振付作『ロメオとジュリエット』より死のパ・ド・ドゥを披露するなど、演目の妙でもダンスファンの心をくすぐります。柳本雅寛は初開催時からの常連で、茶目っ気たっぷりのフリートークはもはや名物に。そこで急遽ダンサーが舞台に引っ張り出されることも多く、柳本いわく「だから最近はみんな楽屋で僕と目を合わせてくれないんだよね(笑)」という裏話も。

ベテラン勢に加え、新進気鋭のダンサーたちの飛躍も見所のひとつ。2016年に初出演したハンブルク・バレエ団の菅井円加はプリンシパルに昇格し、2017年の出演者オーディション優勝者・松浦祐磨はABT studio companyに、2019年初出演の井関エレナはベルリン国立バレエ団へ入団。二山治雄も常連組で、初出演の2015年はまだローザンヌ国際バレエコンクールで優勝したばかりの頃。当初から身体性は群を抜き、リハーサルでは某プリンシパルが「彼と同じ舞台で踊るのイヤになっちゃうよ(笑)」とこぼす一幕が。二山はその後パリ・オペラ座バレエ団契約団員を経て、現在はフリーランスとして世界を股に活躍中。フレッシュだった彼らが羽ばたき、また神奈川に凱旋する姿を目にできるのも、本公演の大きな醍醐味といえるでしょう。

さらに若手ダンサーの育成にも力を入れ、毎年春に出演権をかけオーディションを開催。プロを目指すジュニアにとって、世界の一流ダンサーと同じ舞台に立つ経験は何より得がたいもののはず。今年は4月のオーディションを勝ち抜いた4名が出演するとのことで、ぜひ注目を。またオーディションのクオリティの高さも『横浜バレエフェスティバル』ならではで、ここで特筆しておきたいところ。審査員には、芸術監督の遠藤康行スターダンサーズ・バレエ団バレエ・ミストレスの小山恵美NBAバレエ団芸術監督の久保紘一元東京バレエ団プリンシパルの高岸直樹ら錚々たる顔ぶれが集結。オーディション会場は神奈川県民ホールの大舞台で、審査員が参加者一人一人にアドバイスを与えることで、若手の成長を促していく。実際過去のオーディション参加者の中には現在プロとして活躍するダンサーも数多く、日本バレエ界の底上げに大きく貢献しています。

円熟のダンサーから、フレッシャーズ、プロを目指す若手まで、多彩なキャストをまとめ上げるのが芸術監督の遠藤康行。古典の名作に話題のコンテンポラリー作に新作と、幅広い演目をテンポよく構成し、ダンサーの個性に光をあてる。その手腕は実に見事で、一瞬たりとも飽きることなく目を奪われてしまいます。とりわけ素晴らしいのがフィナーレ! 世界の檜舞台で踊る日本人ダンサーが一堂に会し、キャリアの差を超え手を取り合い、紙吹雪に包まれる……。あの光景は忘れがたく、バレエファンもそうでなくても、きっと虜になってしまうはず。今年はどんな名シーンに出会えるか、神奈川でその瞬間に立ち会ってみてはいかがでしょうか。

 

 

TOP